赴任地への事前視察
私は赴任地の事前視察をすることにしました。しかし、村なので手元の地図には載
っていません。スカウトに来られた先輩の説明を頼りに汽車に乗り、途中乗り換え
て数分進むと、見渡す限りの平野です。時々小さな集落が通り過ぎます。
何か寒々とした風景を見て心細くなってきましたが、迷うことなく目的地の駅に着
きました。
村とはいえ、さすが駅前です。酒屋、ラーメン屋、居酒屋、床屋、洋品店など数軒の
店の看板が見えますが、誰1人として歩いていません。それで近くの酒屋に入り
「○○小学校はどの様にして行けばいのでしょうか?」と聞いたところ
「その踏み切りを左に曲がって真っ直ぐ900間(ケン)行き、それから右に600間行
くと右手に学校が見えてきますよ!そんなに遠くでないですよ!ああ道は300間間
隔になっているから分り易いですよ!」とのこと。
ところが大変です。300間と聞いても長さが分りません。1間は6尺で1尺は
30.3センチ。だから1間は約1.8メートル。そうすると300間は約540メートルだ
から900間で約1.5キロか?1500間だったら大体2.5キロ程度だから歩いて
30分程度でないかな?・・・・・。
ぶつぶつ声を出しながら暗算(頭の中で計算すること)し、数分歩いては時計を見
るのです。右方向の景色には学校らしき建物が見えません。とに角、900間と思
われる交差点を右に曲がって、また歩き出しました。今度は600間です。
二つ目の交差点に来たのですが、やはり学校が見えません。角に小さな看板を掲
げた店がありましたので尋ねました。
すると「その角を左に数十歩行くと右手に見えますよ。」とのこと。
やっと着いたかと思いながら進むと平屋のやや大きめな建物があるのです。
一周200メートル程の小さなグランドがありますので目的の学校に違いありませ
ん。右手に古い木造住宅が3軒とその奥にレンガ建ての住宅が1間あります。
あれが校長住宅かと思いながら、道路脇で校舎の煙突を数えました。8本です。
そうすると職員室があそこであとは普通教室か?と勝手に想像しながら、帰りの列
車の時刻を気にしながら、今来た道を戻りました。
スカウトが見えられた時には期待で胸が膨らんでいましたが、視察後は小さく萎
(シボ)んでしまいました。しかし、文句は言えません。教員になれるのです。
給料をもらって母達を助けることが出来るのです。どんな不便な地であっても子ど
も達がいるのだから喜んで赴任しなければいけないと自分に言い聞かせました。
まっすぐ続く道。雪の融けた田んぼには、刈られた稲の根株が整然と並んでいま
す。日が暮れかかってきた曇り空の下を、駅へ急ぐ私でした。
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