農業繁忙休暇や運動会が終わり、校内に落ち着きが戻ってきた時期です。北海
道教育委員会○○教育局から指導主事(教育委員会が所管する学校における
教育課程、学習指導その他学校教育に関する専門的事項の指導に関する事務を
職務とする人)が、本校に訪問するとの連絡が入りました。
学校では学籍関係(指導要録、出席簿、転出・転入事務処理簿など)が正しく処理
されているか点検し始めました。私だけは、幽霊の指導要録作成です。何せ幽霊
ですから名前、生年月日、保護者名、続柄、住所、教科の成績(5段階評価)、学
習の様子、生活の様子などを書かなければなりません。
しかも3人の幽霊です。名前だけは1,2年の複式学級の担任が名づけてくれてい
ましたし、出席簿に使うゴム印も作られていたのです。私は平均的な人物を想定し
て勝手に書きました。
そして、いよいよ訪問日。学校全体に緊張感が走ります。
1時間目の授業中に校門から職員玄関へ向ってタクシーが来るのが見えます。
校長室がありませんから職員室に長机を用意し、学籍関係の書類が置いてあり
ます。小使いさん(用務員、校務補、業務主事などとも呼ばれている人)がお茶を
出すのです。
当日の指導主事の日程は学校側が設定。
・指導主事到着 ・職員室へ案内(校長) ・お茶を出す(小使いさん) ・職員への
挨拶 ・授業公開(各学年8分程度) ・午前授業で児童下校 ・昼食(校長住宅で)
・講評並びに指導助言、質疑 ・懇親会(教育委員会、PTA会長も招待)
さて、指導主事が指導要録を点検中に新卒の私に質問です。
「先生、松浦君の国語と算数の評価は何点ですか?どのようなお子さんですか?
住所は何所ですか?」と質問攻めです。私は、幽霊の評価は全て「3」にしていまし
たので即答できました。学習の様子についても「授業に集中できるが、発表力が
やや不足。」と一般的なことを書いていたのでセーフです。
しかし住所は何所か答えることができません。校長をはじめ先生方の顔が一瞬こ
わ張りました。私は「ここへ来たばかりですから住所はよく分りません。とに角、向こ
うの方です
」と指さしながら答えました。指導主事は笑いながら
「あゝ、そうですか?早く覚えて下さいね
」とのこと。ほっとしました。
今思うと、学校側も危機意識に乏しかったと思うのです。幽霊の在籍は何時の時
点からかを想定して、指導要録の学籍欄(氏名、保護者名、住所、生年月日などの
欄)は想定した当時の先生の字で書くべきであったし、在籍数や1,2年前の出席
簿との整合性を図るなど改ざんする必要があったのです。
恐らく指導主事は幽霊の存在を知っていて、「万が一会計検査院や道の監査の折
に不正が暴(アバ)かれないように注意せよ!」との警告の意味で質問したものと思
うのです。なぜなら3人の幽霊だけのことを聞き、他の児童については一切質問が
無かったのです。
なお、翌日の職員室では昨日の幽霊に対する私の答弁のことが話題となり、「向こ
うの方です」といったのが可笑しくて可笑しくてと言い、「よく機転がきいたね!」と褒
めてくれたのです。
〔注釈〕 指導主事の学校訪問について、北海道教職員組合(略:北教組)は依然
として反対闘争を展開しております。もし学校が要請するには「民主的討論に基
づいて」と言っていますが、この件に関して職員会議で討論しても職員の大多数が
反対を表明し、多数決の原理で決定するのが「民主的な手続き」であると組合員
が主張するのです。まして校長・教頭に対する指導助言で訪問するのであれば止
むを得ないとの姿勢を示すところもありますが、反対勢力の強い地域も多いのです。
私の赴任当時は北海道教育委員会から一方的に訪問の日時が示され、新聞に
各学校の訪問日が掲載されておりました。
今のように指導主事訪問拒否体制をとるようになったのは、「主任制度」の導入
からであったと思うのです。いずれにしても、学校内部で管理職と教職員間に対立
構造があることは「子どもの教育」にとって大きなマイナス要因です。
教職員が己のご都合主義で「権利主張」するのは問題です。子どもの教育が基
本です。
私は、学校現場の重要問題を公開の場で討議し、地域住民の参画する中で問題
解決するよう路線変更することが大切であると思うのです。組合員も大胆な発想と
組合本部の指令・指示によるトップダウンから、現場の先生方から組合本部の変
革を迫るボトムアップが重要であると思っているのです。
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